- 研究の背景と目的
平成23 年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故対応のための緊急作業にあたり、国は同年3月14日から12月16日まで、緊急被ばく線量限度を100mSvから250mSvに引き上げました。この間に緊急作業に従事された約2万人の方々には厚生労働省より「東電福島第一原発緊急作業従事者登録証」が交付されています。私どもは、平成26年度より「東電福島第一原発緊急作業従事者に対する疫学的研究」を開始し、この約2万人の登録緊急作業者の方々に、定期的な一般健診、ならびに必要に応じて特別健診(がん検診や精密検査など)を受けていただくとともに、健康や生活習慣などの情報を提供していただくことをお願いしております。この調査は被ばく線量の大小によって参加を制限することはありません。
このように長期的かつ総合的に健康状態を調べさせていただくことにより、健診に参加される方々ご自身の健康管理に役立てていただくと同時に、放射線被ばくの健康影響を明らかにすることを本研究の目的としております。本研究により得られる知見は、今後世界中で放射線作業に従事される方々の安全と健康を守ることに役立つことが期待されます。
- 研究の期間
この調査は緊急作業に従事された方々の生涯にわたり続きますが、30年間を当面の研究期間とします。
- 調査対象となる方
厚生労働省が交付する「東電福島第一原発緊急作業従事者登録証」をお持ちの方全員
- 調査対象となる健康影響
悪性腫瘍(白血病、甲状腺がん、その他のがん)、循環器系疾患、甲状腺疾患、白内障、心理的影響、その他の非がん疾患(消化器・代謝疾患、腎疾患など)
- 調べさせていただくこと
本研究では、国が定める「東電福島第一原発作業員の長期的健康管理システムに登録された情報の研究利用に係る取扱要綱」により、厚生労働省から提供を受ける予定の情報や、所属企業および関係機関が既に保有あるいは将来保有することになる情報と、新たに健診や質問票調査で提供していただく情報などを使用させていただきます。
本研究へ参加していただく場合、「2.研究協力への同意」の(1)から(8)と、以下の事柄のそれぞれについて同意をいただいた上で調査を進めさせていただきますので、そちらもお読みください。
(ア) 健康診断による健康状態の調査
1)健診にご参加いただける方には、労働安全衛生法で規定される一般健診項目に加え、がん検診などの詳細な検査を行います。
a)身体計測(身長、体重、腹囲)
b)生理学的検査(血圧、安静時心電図)
c)検体検査(血液・生化学検査、肝炎ウイルス検査、胃ピロリ菌・萎縮性胃炎検査、甲状腺機能検査、検尿、検便、喀痰細胞診検査)
d)画像検査(胸部X線検査、腹部超音波検査)
本研究では定期的に継続して健診を実施します。また、a)~d)に加え、甲状腺超音波検査、白内障検査などの実施を予定しています。
これらの健診による結果を皆様のご同意をもとに研究に使用させていただきます。
2)面接と質問票による健康と生活習慣および心理的影響に関する調査
a)健康と生活習慣に関する質問票
b)心の健康に関する質問票
c)構造化面接(作業を行うことによって受けた心理的な影響をはかるための100程度の質問にお答えいただきます。面談は1対1で、衝立等で仕切られた部屋で行います。お答えにより次の質問内容が構造的に組み立てられていくシステムになっており、時間的には5分から30分程度となります。なお、この面接調査は集団としての分析評価のために行うので、結果の判定・指導はありません)
(イ) 生体試料を用いた研究協力
1)ヒトゲノム・遺伝子解析を含まない将来の調査研究への使用
健診時に採取された血液および尿を本研究が終了するまで保存させていただきます。将来行われる検査では、放射線被ばくの健康影響を詳しく調べるために、血液あるいは尿中に含まれるたんぱく質や脂肪などの成分、血球の分析などを行う予定です。
2)将来のヒトゲノム・遺伝子解析研究への使用
健診時に採取された血液を本研究が終了するまで保存させていただきます。最近、がんや循環器系疾患などの生活習慣病は、食事や喫煙などの生活習慣だけでなく生まれながらの体質(遺伝的素因)にも影響されることがわかってきました。病気に関係する体質(遺伝的素因)を、ゲノムおよび遺伝子そのものを全体的(網羅的)に調べることで解明しようとする研究が急速に進んでおります。本研究においても将来、放射線被ばくと病気のリスクとの関係をより詳しく調べるために、このような体質を考慮に入れた解析を行うことを考えております。
※「ゲノム」はヒトのからだをつくる設計図として働くもので、ヒトのからだは、このゲノムの情報に基づいて成長・維持されています。特にたんぱく質をつくる設計図として働く部分を「遺伝子」と呼びます。なお、ゲノムとDNAは同じ意味で使われることがあります。
- 研究参加にかかる費用
本研究は厚生労働省の労災疾病臨床研究事業費補助金で行いますので、健診費用のご負担をおかけすることはありません。調査参加のためにかかる交通費は、通常の経路で最も経済的な額をお支払いします。また、謝金をお支払いします。
- 研究計画の閲覧および情報公開
ご希望があれば、本研究計画の内容に関する資料をご覧になることができます。また、労働安全衛生総合研究所(安衛研)のホームページに本研究の概要などの情報を掲載し、ニュースレターを通じて定期的に進捗状況についてお知らせいたします。
- 個人情報の保護
あなたの情報は、国が定めた基準(個人情報保護法、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」、および「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」)にしたがって厳重に保護・管理します。
個人情報の匿名化
本研究において、あなたを特定するために、氏名、住所、電話番号、生年月日などの個人識別情報を利用しますが、あなたに連絡を取る場合、あなたの健診を実施する場合、あなたの健診結果をあなたに報告する場合、あなたの同意が得られた場合にはがん罹患状況の確認を行う場合、死因の調査を行う場合などの目的を超えて利用することはありません。本研究で収集した資料は、個人が特定できる情報が付いた状態で研究代表機関である安衛研に提供されます。紙資料(個人の健診データや質問票、同意書など)、電子データが記録された電磁記録媒体(光ディスクやフラッシュメモリなど)については、施錠可能な部屋の施錠可能な保管庫で厳重に保管します。電子データはすべて、安衛研において、あなたとまったく関りのない番号をつけて(匿名化といいます)、安衛研の施錠可能な部屋に設置された専用サーバーに記録・保存します。データを分析する研究者に提供する場合は匿名化された情報とし、どなたのものかわからないようにいたします。
血液や尿などの試料の保存は、全て匿名化した番号をつけて、放射線影響研究所の-80℃超低温ロボット式フリーザー(超低温冷凍庫)で保管しますので、権限を付与された操作者以外に取り出すことはできません。分析のため研究者へ提供する時には匿名化したままです。
資料(情報・試料)の保存と廃棄
本研究で収集した資料は、研究が終了するまで安衛研で保管いたします。これらを廃棄する場合、すべての資料は復元不可能な方法で廃棄いたします。
- 研究への参加の自由、参加中止の自由
本研究への参加にご協力くださるかどうかは、あなたの意志でお決め下さい。ご協力いただかなくても、何ら不利益を受けることはありません。
また、一度研究に参加された場合でも、途中で参加を止めたい場合は、不利益を被ることなくいつでも中止することが出来ます。その場合は、研究への参加中止申し出のための文書をお送りいたしますので、当研究の研究本部(フリーダイヤル:0120-865-618)にお知らせ下さい。
- 研究に参加することによる利益と不利益
健診を受けられた方には、その結果をお知らせしますので、病気の早期発見や健康管理に役立ちます。また、本研究により得られる知見は、今後の医学の発展や、将来的に病気の予防・診断や治療等を効果的に行うことに役立つ可能性があり、放射線作業者の方々の安全と健康を守ることにも役立つことが期待されます。
健康や病気に関する情報を集めますので、漏洩して悪用された場合は研究に参加してくださった方が不利益を受ける可能性があります。しかし、そのようなことを防止するために、個人情報を含む資料については、電子資料はすべて匿名化し、紙資料は施錠可能な部屋および保管庫で厳重に管理します。
- 健診結果の報告と研究成果の公表について
個人への結果の報告
ア) 健診を受けられた方
あなたの健康診断の結果は、受診された医療機関の医師からあなたに報告されます。
イ) 生物試料(血液、尿)の保存・使用に同意された方
将来の調査研究で保存試料が使用された場合、その測定結果をあなたに報告するかどうかはその研究のための個別の研究計画書で検討されます。測定や分析結果が、どのような病気と関連する可能性があるか正しく解釈できるようになるには長い時間がかかり、あなたの健康管理に役立つ情報が直ちに得られる可能性が低いと考えられるときは報告しない場合があります。その場合でも、集団として分析された研究結果が、放射線被ばくの健康影響を明らかにするうえで役立つものとご理解・ご了承いただければ幸いです。
研究成果の公表
集団として分析された研究結果は、学会や学術雑誌などで発表する他、当研究のホームページ上に掲載するなど、個人が特定されない形で公開する予定です。また当研究のニュースレターを通じて、これら公表された研究結果を、ご協力いただいた皆様にわかりやすく解説をつけてお届けいたします。
- 研究により生じる知的財産所有権について
研究の結果として知的財産所有権(著作権、特許権、実用新案など)が生じる可能性がありますが、その権利は国、安衛研およびその共同研究機関に帰属することとなりますのでご了承ください。
- 研究により生じる利益相反について
安衛研に所属する研究者に関する利益相反の審査は、安衛研利益相反・管理委員会が行い、その他の研究分担者はそれぞれが所属する研究機関の利益相反防止委員会で審査されました。その結果、所定の基準を超える経済的利益の申告がないことが確認され、研究代表者にその旨が報告されております。各利益相反防止委員会は、本研究の期間中、本研究において公正かつ適正な判断が損なわれることのないよう、継続的に利益相反の審査を行います。